ビッグ・クエスチョン【読書感想文にもオススメ】

今回の記事では故スティーヴン・ホーキング博士の「ビッグ・クエスチョン」を紹介します。科学に関する「大きな疑問」「究極の問い」を扱ったもので、メインの読者ターゲットは理科好きの中高生くらいのイメージでしょうか?

ホーキング博士も「すべての人が科学技術に興味を持って、知識を持たなければならない時代になっている」と何度も述べています。専門的な内容はなるべくわかりやすい身近な例を書いていますので、小学生や勉強からかなり遠ざかった社会人にもオススメの一冊です。

f:id:flowers4algernon:20220320210720j:plain近現代もっとも優秀な科学者でありながら、世界中の人々に愛されたキャラクターと生き方を実現していたホーキング博士。不治の病や車椅子の天才というイメージを持っている方も多いと思いますね。その人柄や思いを馳せていた未来を共有することができます。

 

本書は全部で10章の構成です。どの章もスケールが大きく、人類が有史以来の謎、挑戦してきた歴史が描かれています。最終的な答えが出ているわけではありませんが、現在我々が理解している範囲の最新情報を盛り込みながら、あなたなりの答えをイメージすることができます。

 

1章ずつダイジェストで内容を紹介します。

 

1 神は存在するのか?

2018年3月に死去した際に、葬儀埋葬を行ったわけですが、どのような形式で行うのか相当に周囲の配慮があったと察します。科学者として世界の第一線で活躍している頃、タイムズが「ホーキングいわく、神は宇宙を作らなかった」と一面トップに取り上げられたことがありました。

大昔から「私たちはどこから来たのか?」「なぜここにいるのか?」というビッグ・クエスチョンが存在します。その問いの答えは世界中で多くは「神がすべてを作ったのだ」というものです。

科学の発展によって、自然界の法則が次々と明らかになっています。別の言い方をすると、宗教や神が扱っていた問いに科学が答えられるようになってきました。「ビッグ・クエスチョン」は、あらゆる現象を神を持ち出すことなく、自然法則によって説明する方が良いというスタンスで書かれています。

神を絶対的に否定するわけもなく、神の定義に考えながら、神の必要性についても触れています。ホーキング博士は(アインシュタイン博士も)神という言葉を、人格を持たない自然法則という意味で使っています。つまり、神の心を知るということが、そのまま自然法則を知るということです。

アルベルト・アインシュタインの「質量とエネルギーは本質的には同じものだ」という大発見、ビッグバンにまつわる謎、負のエネルギー、時間が発生する前の状態、のようなキーワードを紹介しながら、以降の章に繋げています。

 

2 宇宙はどのように始まったのか?

有史以来、宇宙は永遠に存在すると考えられてきました。宇宙には始まりがあると考える哲学者や科学者は、別な問題を抱えていたことになります。「宇宙が始まる前には何があったのか?」

ここでもアインシュタインが登場します。世紀の大発見からその後の天体観測の進化により、宇宙に始まりがあることを証明します。私たちが日常当たり前のように感じている「結果には必ず原因がある」という考え方を捨てて読まなければなりませんね。勉強や仕事でも「結果には必ず原因がある」という見方で対策をしますので、ちょっと違和感があるかもしれません。宇宙の始まりは一切が無限大の密度を持つ一点、時空の特異点に詰め込まれたビッグバンだったことを丁寧に説明してくれます。

面白いのは、1927年ドイツの科学者ヴェルナー・ハイゼンベルグによって提唱された不確定性原理アインシュタインの「神はサイコロを振らない」の対立です。粒子の位置と速度の両方を同時に正確に予測することはできないという不確定性原理、これをアインシュタイン一般相対性理論に組み込まなければならない課題は残っているようです。

 

3 宇宙には人間のほかにも知的生命が存在するのか?

 ヒトという種の生き残りに役立とうともせず、愚かなことを続けている人類は「知的生命」なのか?という問題はあるけれど、この章では「別の場所に生命が存在する可能性はどれくらいあるのか?」を取り上げています。

「生命とは何か?」という定義の問題もあるのですがホーキング博士の主張で興味深いのは、コンピュータ・ウィルスも生命と捉えていることでしょう。餌となる他の生物に依存して生きている、遺伝子を持っており、遺伝を実行するためのメカニズムを持っていることが理由ですが、破壊的な性質のコンピュータ・ウィルスを同じような性質を持つ人類が作り出したわけです。こういった人類の愚かさについては、本書では何回も触れています。

DNAやRNAが誕生した謎について説明をしますが、この章で重要なのは人類の進化が他の生物と決定的に違うことではないでしょうか。人類の進化によって言葉、特に書き言葉が発明されたことで、DNAによる遺伝的な伝達以外にも情報が受け継がれるようになりました。これによって世代から世代に伝えられる情報量は爆発的に増大したというわけです。その結果私たちのDNAは完全読解されるようになり、自分たちで書き直すことも可能になりました。

ここも後の章に繋がりますが、人類が自らをデザインするようになり、自己破壊のリスクを減らすことができれば、他の惑星に移民できるだろう可能性について考えています。反対の見方をすれば「なぜ銀河系を探索していて、見知らぬ生命体に出会うことがないのだろうか?」という疑問が湧いてきます。ホーキング博士もいくつかの可能性を紹介していますが、知的生命は自らを絶滅させる可能性が高いかもしれないという考え方は重いですね。

 

4 未来を予言することはできるのか?

不確定性原理がキーワードになっています。毎日目にする天気予報のように「自然現象はすべて計算可能で予測可能なのか?」がテーマです。スーパーコンピュータの進化により、天気予報は一昔前と比べると、かなり当たるようになっていますが宇宙規模で考えたときに、どこまで予測することができるのか、量子力学について解説しながら紹介しています。

 

5 ブラックホールの内部には何があるのか?

ホーキング博士を一躍有名科学者にしたのはブラックホールかもしれません。理論上の存在であったブラックホールが、重力の研究や天体観測が進むにつれて徐々に明らかになってきました。多くの星はいずれ核燃料を使い果たす、その星はやがて重力により崩壊する、もし大きな星が崩壊した場合には無限大の密度を持つ一点に収縮する、その先には何があるのだろうか?

ブラックホールには膨大な量の情報と謎があります。仮に何かがブラックホールに落ちたらどうなるのだろう。最終的にブラックホールも全質量を失って消滅することだろう。そのときブラックホールに落下したすべてのものはどうなるのだろう。これまでの法則が成り立たない世界の研究が続いています。

 

6 タイムトラベルは可能なのか?

私もSFが好きなので、タイムトラベルは気になりますね。光よりも速い宇宙船を作ることができるのか、これができれば宇宙船に乗ってSFのようなストーリーが描けます。この方法は無限大の出力が必要になるので、別な方法を模索しているようです。ワームホールスペースワープ、タイムワープいろいろな方法が考えられますが「なぜ未来から戻ってきた誰かに私たちは出会えないのだろうか?」という疑問は残ります。

タイムトラベラーを招待するためのパーティーを招待状なしで開くあたり、ホーキング博士のユーモアセンスは飛び抜けています。

 

7 人間は地球で生きていくべきなのか?

この章あたりから、地球が危機に直面している問題を大きく取り扱っています。特に地球温暖化は、私たちの生活を快適する一方、すでに手遅れになるかもしれない事態となっています。科学の進歩によって、核兵器の壊滅的な危険性が現れ、地球上の生命を永遠に変えてしまうくらいの気候変動を起こしています。そして政治家の多くは関心が低いか行動力がありません。

地球温暖化がもはや止められない段階まで進んでいます。ホーキング博士の考えでは、次の千年のどこかの時点で環境の大変動や核戦争により地球が住めない場所になると見ています。人類に地球を離れる必要が発生したときに、絶滅の危険を冒しながらも宇宙に飛び出すかもしれません。

 

8 宇宙に植民地を建設するべきなのか?

なぜ宇宙開発は必要なのでしょうか?行かなければならないのでしょうか?地球上でもっとやるべきことがあるのではないか?この疑問に答えます。宇宙ステーションでは心身上の問題が大きいので、宇宙に植民地が必要になるかもしれません。

ホーキング博士の主張は「もしも宇宙に出ていかなければ、人類に未来はないだろう」です。宇宙旅行の興奮と驚きを伝えたいホーキング博士が、どの惑星を目指すことになりそうか、その移動手段をワクワクする内容で紹介してくれます。

 

9 人工知能は人間より賢くなるのか?

AIについては、AI自身が自己成長プログラムを進捗することによって爆発的に進化するシンギュラリティが話題になっています。この章と最終章はホーキング博士が世界中の若者に対して本当に伝えたかったメッセージだと思います。AIは恐ろしい武器にもなるし、人類を明るい未来にするためのツールにもなります。そして人類がAIを理性的にコントロールできるのか問われる時代に突入しています。

今一度このタイミングで、私たちはテクノロジーをどのように活用するのか、私たちはどうあるべきなのか・・・考えさせる章になっています。

 

10 より良い未来のために何ができるのか?

 あまり本書の核心的な部分を書くわけにはいかないのですが、この章があって全体を包み込むイメージの構成になっています。科学技術、テクノロジーに無関心ではいられない時代、そんな時代になりました。ホーキング博士がこの世から去ってしまったことは大変残念ですが、絶望も希望もある未来が待っていることは間違いありません。

ひとりで読んでみても考えさせられますし、家族や同級生で読んでみてもこれからのことを真剣に考えるきっかけになる良書です。

 

複雑な内容は極力削ぎ落して編集されているので、ちょっとでも宇宙、未来、パソコンなどに興味があれば一気読みできると思います。ぜひ参考にしてみてください。