現在私は、宇都宮市の個別指導塾で教室長をしています。すでに3年以上も前の話になりますが、塾の保護者面談での話です。
ある親子とは初めての三者面談です。
多くの場合は年に3回から4回、生徒と保護者で別々に面談を行います。生徒との面談は着座して時間をかけて話すこともあれば、立ち話の延長で突っ込んだ話をすることもあります。
だいたい保護者が来塾できる時間帯が日中だったりするので、生徒も交えての三者面談は理想的でありますが、なかなか実現できません。
そのときは、そのご家庭の方から三者面談のスタイルを申し込んできたので、何か相談事や悩みでもあるのかと思って準備していました。
親子で一緒に来塾して、面談ブースまで案内をしながら、三者面談を希望する理由がわかりました。お父様は耳が不自由で、言葉もほとんど話せない方でした。なんと中3受験生の女子生徒が手話で同時通訳しながらの三者面談です。
私は、なるべくいつものように、しかし手話が遅れないように少し注意しながら話します。
ここ最近の模試の結果や授業での様子について、生徒が隣に座ったお父様に手話で伝えます。正直志望校には偏差値で届くかどうかの瀬戸際でした。現状のカンタンではない見通しやこれからの具体的な受験対策など、難しいニュアンスの内容もしっかり伝えてくれています。
普段からごく自然に、お父様をサポートしているのがわかります。
日常の様子を聞くと、その生徒が夜寝るのは24時過ぎとのことです。何をそんなに頑張っているのかと思いましたが、一部の家事や弟妹の面倒を見るのも彼女の仕事のようです。
現状の成績をもとに、受験に向けた冬期講習のプランを提案しました。受験本番まで残り時間は少ないので、模試の得点分析をもとに
・一番点数が伸びそうな社会に力を入れる
・前期選抜も受けるので小論文対策を添削で行う
・苦手な英語は総復習する
というプランだったと記憶しています。
私は手話はまったくわかりませんが、二人のやり取りを見て
「おまえが受けたいんだったら受ければいいよ」
と言ってることくらいはわかります。
結果的に私の提案通りのプランで冬期講習を申し込んでもらいました。
申し込んでいただくときには
「残り数カ月できる限りの応援をさせていただきます」
と伝えることが多いのですが、このときは
「ありがとうございます」
となぜか頭を下げてしまいました。
お父様には手話通訳を通じて
「前任の教室長と同じようにしっかりと分析、提案してくれるので安心しました」
と言っていただきました。
私が励ましてもらってどうするんだ?と考えさせられたエピソードです。
彼女が最後に教えてくれた
「手話の同時通訳者になるのが夢」
ホントに叶えばいいです。