学習塾の教室長の目で見た、学力向上のコツをまとめたいと思います。だいぶ前の話になりますが、私は大学時代の4年間、全国展開している集団塾でアルバイトをしていました。
塾講師のアルバイトをスタートしてから当面は、研修ということで、先輩方の授業をたくさん見学する機会がありました。集団塾だったこともあって、教室の後ろの方に座っていれば自然に参加できます。もちろん先輩方が私のたどたどしい授業を見に来ることもありました。
はっきり言って、研修はやりたくない仕事のひとつでしたが、今思えば、本当に貴重な経験をさせてもらったと感謝しています。
最初のうちは、見学する側でも緊張します。授業後に先輩方に何かしらのフィードバックをしなければならないので、ある意味受けている生徒より真剣に、授業の展開、生徒の様子を見学するわけです。「このまま授業がずっと終わらなければいいのにな」と生徒とは反対のことを考えたりしていました。
そういうわけで、自分達の授業の質を上げることが目的なわけですが、受けている生徒の様子も客観的にいろいろ見ることができたのは、とても良い経験です。
数年前のことですが、今の会社で急遽、学習塾部門に異動になったときがありました。
同じことを第一印象で感じたのですが、それは、新しいことを教えたときに、水を得た魚のようにスイスイ解く生徒もいれば、PCがフリーズしたように手が止まっている生徒もいるっていうことです。
別に当たり前のように聞こえるかもしれませんが、同じ年齢、同じカリキュラムで教わって、同じ先生に一緒に授業を受けているのに、なんでいきなりこんなに動きが違うんだ?っていうことです。
・テストをやってみて結果で差がつく
・少し難しい応用問題になったら差がつく
ならわかります。今まで教わってきた内容とつなげて、新しい単元の新しい例題を説明しているだけなのに最初の演習の最初の一手から差がつく、ということが改めて不思議だな、と感じました。と同時にここを何とかしなければ、苦手な生徒はどんどん手が出なくなります。「この通りにやってみよう」というモチベーションが下がってしまうと止まらなくなりますからね。
塾講師の目線で見ると
「え?この通りにやるだけじゃん、なんで手が止まってんの?」
っていう生徒には、とにかく最初の一手を徹底的に教えます。
数学が5教科のなかで一番わかりやすいのですが、いきなり解答用紙に答えを書くことはほとんどないはずです。余白に計算をしたり、何かメモしたり、自分なりに表を書いてみたり、何かしらの下書きみたいなものを書きます。図解という表現や図の抜き出しなどの表現でも当てはまります。
実際に問題を解く前に、この下書きがスムーズに書けるかどうかが偏差値でいうと50の壁です。どんな問題でも下書きを書くプロセスがしっかりできていれば、確実に伸びます。そのため、塾講師は生徒の数学の力を見るときは点数などの情報がなくても、最初の一手がスムーズに出ているかどうかを見るだけで把握できます。
なかなか手が出ないのに数学点数だけは良い、なんて生徒は見たことがありません。
その生徒の数学の力を見るときに
・点数だけ見るのは一般的な親レベル
・解答用紙で分析するのが熱心な親レベル
・問題用紙の下書きまで見るのがプロ講師レベル
といったところでしょう。普通の講師は、そもそも普段の授業の理解度や手の動き方で「何点くらいになりそうだな」と想定しているので、短期的な結果は重視してないと思います。
「最初の一手」がスムーズに出ているのかセルフチェックできるタイプの生徒は伸びますね。最初の一手が出れば、2手目、3手目が自然に出ることをわかっているからです。もしも、学習塾に通えないような環境であれば、参考書に頼ることもあると思いますが「この問題はまず何するの?」がはっきりとわかりやすく書いてあるものが良いですね。
どんなに丁寧に解説してあったり、どんなにカラフルなデザインの参考書でも
・最初の一手は何をする
・まずは何をする
が書いていない参考書はなかなか成果が出ないと思いますね。やる気が出たり、わかったような気持ちにはなるでしょうが、実際に問題を前にしたときに「あれ?どうすればいいの?」となります。内容の理解だけであれば教科書で充分です。コンパクトに説明をまとめたり、実際はどのように解くのか、が欠けていると、学習塾も参考書もやることが増えているだけになるので注意が必要ですね。
・国語や社会は、何のキーワード見て何を連想する
・理科は、何の分野の何のテーマの問題なのか見分ける
・英語は、何を聞かれているのか見分ける
ざっくりと言うと、5教科それぞれで問題の解き方は変わりますが、最初の一手が大切だということは変わりません。私は現場で教えたり、オリジナルテキストを作成したりする立場ですが、何十年経っても原理原則は変わらないですね。