「平面人からの手紙」で学ぶ2次元と3次元【読書感想文にもオススメ】

いつもは学習塾教室長の経験から、勉強の仕方や高校受験、大学受験のポイントを紹介しているブログです。今回は番外編で数学にまつわる書籍を紹介します。タイトルがいかにもって感じで、数学が嫌いだと取っつきにくいかもしれませんが「平面人からの手紙」という物語です。

 

「こぼれ塾」という個人塾の名物おじいちゃんが、ある日火災で亡くなるところから物語ははじまります。「こぼれ塾」は教科書の内容を教えるというより先に、勉強に対する興味を引くことを大切にしている塾でした。一緒にマンガに夢中になったり、算数ゲームを楽しませたり、ワープロを使わせてみたり、興味を持つことから勉強をはじめます。もちろん、作り話ですが理想的ないい塾ですね。

 

少し前の書籍なので、言葉が若干古いかもしれません。

今の小中学生が読んだら知らないモノもあるでしょう。ワープロはパソコン、フロッピーディスクUSBメモリやハードディスクだと考えればOKですね。火災現場に残されていたフロッピーディスクのデータが残っており、塾の教え子たちが見つけるところから本編はスタートします。

 

フロッピーディスクにはアリが群がっており、それによってデータが守られたというエピソードは後々になって意味を持ってきます。

 

フロッピーディスクの中には、亡くなったおじいちゃんの教材データがあったかと思いきや、意味不明な記号やときどき日本語も並んでいます。象形文字というか「🏃‍♂️」みたいな記号を解読すると、そこには驚くべき世界が広がっています。

 

彼らは2次元の世界に住んでいます。

物語の中では平面人として話が進みます。彼らは3次元の立体という考え方を理解していません。上から物を見る感覚がないので、人間でいう目や耳は意味がないので持っていません。

円周率や三平方の定理が成り立たない場合もあるので、まっすぐの平面ではないようです。つまり曲がった平面上に住んでおり、世界が成り立っています。「物体」という概念がないので、他人を識別する方法は「匂い」です。1人1人の匂いが違っていて、しかも遠近感も表せるので平面上の世界で形を把握します。

空気の振動もないので「音」という概念がなく、音を察知できるのは限られた平面人のみです。

 

平面人の主人公「大」を中心に物語は進みます。「大」は我々人間の話を「盗み聞き」できる能力を持っています。他にもそれができる平面人がおり、彼らなりに研究を進めて3次元世界の人間が存在して、どういう特徴があるのかを知っています。3次元世界には前後左右だけでなく上下もあるという感覚を理解しようとしています。

 

平面人の世界ではかなり先進的なシュタイン先生が、「大」に2次元の世界と3次元の世界の違いを教えます。「大」はひたすらそれを言葉にして書き残します。フロッピーディスクの余白の部分に書き残すことによって、3次元世界の人間に平面人の存在を知ってもらおうというわけです。

 

物語はさらに続き、「大」は平面人の世界が残り68日で滅亡する事実を知ってしまいます。匂いが彼らの世界から消えようとしているからです。シュタイン先生の指示で書き残していた記録は、存在していた証を残すため、一縷の望みをかけて人間にその事実を知ってもらうためでした。

 

残り68日で滅亡の事実を聞かされ、平面人の「大」は悩みます。

「大」はシュタイン先生から、別世界に通じるトンネルに行くように提案されます。

そのトンネルを通れるのは、平面人でも身体を特別に細くできる者、そして特別な能力を持っている者に限られます。トンネルを通れる限界があるからです。

「大」は、みんなと一緒に滅びた方がラクなんじゃないかと悩みます。

「大」は、科学技術はすべてを解決してくれるんじゃなかったのかと疑います。

 

平面人の物語なのでピンとこない部分もありますが、生きるとは…死ぬとは…を改めて考えさせるシーンも多いです。また2次元、3次元の違いなんて数学を勉強するときには深くイメージする必要がないのですが、平面人の生活を通して理解することができます。

 

3次元世界では、亡くなったおじいちゃんの教え子たちが考えています。この平面人の世界は本当なのだろうか、おじいちゃんが生前にこんなすごい物語を書いていたのだろうか、何かコンピューターウィルスの一種ではないだろうか、話し合いが続きます。しかし、人間にはイメージできないような数学的な概念も書かれており徐々にこの物語は本当なのではないか…そう思うようになっていきます。

 

特に無限大の扱いは面白いですね。

・・・・・・999999.000000

を左側に無限に続く数だとすると、我々はこの数を無限大∞として扱います。

これを無限大とせずに、数だとするとこういうことになります。

・・・・・・・・・1.000000

を加えると、一の位が繰り上がって十の位もゼロ、

十の位が繰り上がって百の位もゼロ、これが続いて最終的に答えはゼロになります。

 

加えている数は1ですから、・・・・・・999999.000000はマイナス1ということになります。もちろん中学数学や高校数学で勉強する内容とはまったく違うのですが、新しい考え方を通して数や計算を考え直してみる機会はとてもいいと思いますね。

 

匂いが消えることによって滅亡する平面人の世界、それを読解しながら物語を追う3次元世界の我々、この2軸で物語はどんどん進みます。ここから先は物語の核心になるので省略しますが、計算などは読み飛ばせる部分も多く純粋に物語を楽しんでもいいでしょう。少ないページで上下巻に分かれていますので、1日1冊のペースで読めると思います。読書感想文やちょっとした息抜きにオススメです。

 


平面人からの手紙―数学ファンタジー (上)

 

平面人からの手紙―数学ファンタジー (下)